大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(ツ)17号・昭31年(ツ)16号 判決

借地人が約定の賃料を支払わぬときは、賃貸人たる地主において賃貸借契約を解除し得ることは民法第五四一条の明定するところであるから、本件土地賃貸借契約解除の結果地上の映画館たる建物を収去することは借主たる上告人金に損害があり、延いて国民の文化生活を損うという一事由で被上告人のなした本件土地賃貸借契約の条件付解除の意思表示を権利の濫用と目し得ないことは勿論である。しかして、土地賃貸借契約が解除させられた以上、賃貸人たる地主において借地人に対し借地の明渡を請求し得ることはいうまでもないところであるから、この請求の結果借地人その他に損害が生じたとしても、それは借地人が自ら招いたものというの外なく、その責任を賃貸人たる地主に転嫁することは許されない。それ故、被上告人が本件土地賃貸借契約解除を原因として上告人金に対し本件建物の収去土地の明渡を訴求することは、特別の事情のないかぎり権利の濫用であるとなすことはできない。原判決によれば、原審は権利濫用を主張するには、その濫用であると称する権利の行使が、その行使者に極めて僅少の利益を与えるにすぎないか又はその権利の行使をさほど必要としないのに拘らず、その行使を受ける相手方においてはその行使により致命的な又は極めて莫大な打撃を与えるが如き場合であることを具体的に陳述すべきものであり、裁判所が権利濫用を認めるにも右事情の存することを具体的に認定することを要すると説明したうえ、本件において上告人金は収去を求められる建物が映画館で国民の文化生活に資するものであるという以外に上叙のような権利濫用に該当する具体的事実の主張がないばかりか、本件全証拠を以てしても右の如き具体的事実のあることを認め得ないと判示して、同上告人の権利濫用の抗弁を排斥していることが明瞭であつて、右原審の説明は当裁判所においてもこれを是認することができ、原判決摘示の上告人金の主張、同人及び被上告人の提出援用した証拠方法によれば、右原判示の如く認定説示するのが相当である。

(柳川 村松 中村匡)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!